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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)4992号 判決 1990年5月22日

原告 武井保雄

原告 株式会社武富士

右代表者代表取締役 秋吉良雄

右両名訴訟代理人弁護士 関野昭治 松浦安人 加藤一昶 鈴木祐一 小倉良弘

被告 株式会社新潮社

右代表者代表取締役 佐藤亮一

被告 後藤章夫

右両名訴訟代理人弁護士 多賀健次郎 中村幾一 島谷武志

主文

一  被告らは、原告武井保雄に対し、雑誌「フォーカス」に、別紙(一)のとおりの謝罪広告を、「謝罪広告」とある部分は一二ポイントの活字(ゴシック)で、そのほかの部分は一〇ポイントの活字で、一回掲載せよ。

二  被告らは、原告武井保雄に対し、連帯して二〇〇万円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告武井保雄のそのほかの請求を棄却する。

四  原告株式会社武富士の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、原告武井保雄と被告らとの間で生じたものは、これを三分し、その二を被告らの、残りを原告武井保雄の負担とし、原告株式会社武富士と被告らとの間で生じたものは、原告株式会社武富士の負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは、原告らに対し、朝日新聞、毎日新聞、読売新聞及び日本経済新聞の各全国版朝刊社会面に、別紙(二)謝罪広告文案一記載のとおりの謝罪広告を、二分の一頁の大きさで、表題部は二〇ポイントの活字(ゴシック)、そのほかの部分は一〇ポイントの活字で、雑誌「フォーカス」に、別紙(三)謝罪広告文案二のとおりの謝罪広告を、二分の一頁の大きさで、表題部は二〇ポイントの活字(ゴシック)、そのほかの部分は一〇ポイントの活字で、それぞれ一回ずつ掲載せよ。

二  被告らは、原告各自に対し、連帯してそれぞれ五〇〇万円及びこれに対する昭和六二年四月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告武井保雄及び同株式会社武富士が、昭和六二年四月一〇日号の雑誌「フォーカス」に掲載された原告武井及び原告武富士に関する記事並びに原告武井の写真が、同原告らの名誉を毀損し、かつ、原告武井の肖像権及びプライバシーを侵害しているとして、同雑誌の発行者である被告株式会社新潮社と同雑誌の編集長である被告後藤章夫に対し、謝罪広告と慰謝料の支払とを求めた事案である。

一  争いのない事実

1  被告後藤章夫(以下「後藤」という。)は、被告株式会社新潮社(以下「新潮社」という。)の被用者であり、同会社が発行する雑誌「フォーカス」の編集長である。

2  後藤は、「フォーカス」昭和六二年四月一〇日号に、車椅子に乗った原告武井保雄(以下「武井」という。)の写真(以下「本件写真」という。)、並びに武井及び原告株式会社武富士(以下「武富士」という。)に関する記事(以下「本件記事」という。)を載せ、これを昭和六二年四月三日頃発売し、全国で約一二〇万部販売して不特定多数の者に閲読させた。

二  本件訴訟の争点

本件訴訟の争点は、右「フォーカス」に掲載された本件記事及び写真が、武井及び武富士の名誉を違法に毀損し、または武井の肖像権及びプライバシーを違法に侵害しているかどうかという点にある。

三  争点についての当事者双方の主張

1  原告は、次のように主張している。

(一) 後藤は、本件記事及び写真の掲載により、次のように、武井及び武富士の名誉を毀損し、かつ、武井のプライバシーを侵害している。

(1)  武井の名誉の毀損

ア 武井が、武富士の経営拡大にあたって強引な手段も辞さず、三〇数億円の豪邸に住み、金むくのライター、ダイヤのネクタイピン、一〇〇〇万円のミンクのコートを所有するとの事実を摘示し、成金趣味のギンギラ会長であると評する部分は、事実に基づかない中傷であり、武井の名誉を毀損している。武井は、金むくのライター、ミンクのコートは所持していない。

イ 武井について、膚にツヤがなく、目に生気がない、原因不明の高熱で極秘に入院している、一年程前から糖尿病で目がよく見えない、昨年も「良性発作性眩暈症」で入院した、健康はもとに戻らないのではないか等の事実を摘示する部分は、武井が一年程前から再起不能の病気にかかっており、今般原因不明の高熱のため入院したが、武富士への悪影響を恐れてひそかに入院した、との印象を抱かせるもので、武井の名誉を毀損している。

そして、右の事実の摘示は真実ではない。すなわち、本件写真が撮影された昭和六二年三月二五日頃には、武井の病気はすでに肺結核と分かっており、それが回復不能の病気ではないし、熱の原因が不明でもない。また、武井の視力はよいし、糖尿病にかかったこともない。

(2)  武井の肖像権及びプライバシーに対する侵害

ア 武井は、見舞客の応対に追われるなどのことを避けて静かに休養するため、病状及び入院の事実を秘匿しておきたかったのであるが、これを公表したのは、武井のプライバシーを侵すものである。

イ 被告らは、車椅子に乗った武井の写真を病院内で撮影し、「フォーカス」に掲載したが、これは武井が公表されたくない事柄であり、かつ、武井の承諾なく撮影したものである。これは、武井の肖像権及びプライバシーを侵害する行為である。

被告側では、病院関係者をそそのかして患者の秘密を探り、病院の承諾なくその建物内に侵入して写真撮影をしたもので、このような取材は、社会通念上是認されない態様であって、違法である。仮に報道内容が公共の利害に関係するものであったとしても、違法性は否定されない。

(3)  武富士の名誉の毀損

「武富士では重要事項はすべて会長決裁、社長は単なる飾り物にすぎない」と評する部分は、事実でないし、また、武富士が経営管理規則の整備及びその運用の状況が悪く上場基準を満たさない会社であるかのような印象を与え、武富士の名誉を毀損している。武井、その妻、関係会社が、武富士の株式の八割を保有しているのは事実であるが、武富士には役員会があり、武井の意思だけが通るわけではない。

また、「トップが倒れれば会社も傾く」との部分は、武井が重症で武富士を指揮できないため今にも倒産しかねないような印象を与え、事実に反し、武富士の名誉を毀損している。

(二) 新潮社の本件記事による報道の違法性は、否定されない。

(1)  公共の利害に関しないことについて

本件記事で報道された事実は、公共の利害に関わらないものである。

被告らは、武富士の動向が消費者金融業界の実態、適正化等の諸問題に関わると主張しているが、貸金業等規制法の施行により、少なくとも登録された業者に関しては、悪質な取り立てなどは皆無となった。武富士自身も、高金利、過剰貸付、強引な取り立てなどとは無縁であるから、被告らの主張は失当である。

また、武井個人の財産や健康状態は、消費者金融業界の適正化などとは無関係であり、武井の行う社会的活動に対する批判ないし評価の資料とはなり得ないから、公共の利害に関する事実ではない。

(2)  公共の利益を図る目的のないことについて

本件記事の「成金趣味」「ギンギラ会長」「社長は単なる飾り物」という表現は、原告らを揶揄、嘲笑するものである。被告側では、原告らに対し悪意を持って本件記事を書いたものであり、公共の利益を図る目的に出たとはいえない。

(3)  真実と信ずるに足りる相当な理由のないことについて

さらに、被告側が本件記事の根拠として利用した週刊誌は真実を伝えていない。また被告側で取材した秋葉節一は、武富士と確執があったと報道された人物であるし、三年前から武富士との交流がないから、同人に最近の武井の健康を取材しても不十分である。「A氏」の氏名、素性などは明らかでない。したがって、これらだけでは真実と信じるに足りる相当の事由があるとはいえない。

2  これに対し、被告らは次のように主張している。

(一) 本件記事の掲載が違法でないことについて

(1)  本件記事が公共の利益に関することについて

消費者金融業界では、高金利、過剰貸付、強引な取り立て、これによる債務者の家出や自殺などの問題が多発し、大きな社会問題となっていた。貸金業等規制法の施行以後も、そのような問題がなくなったわけではない。武富士自身、過剰融資・悪質取り立てを行っており、しかも融資残高が二九五五億円であって極めて多くの庶民が貸付を受けている。また、原告会社は、消費者金融業界トップの会社であり、その動向は同業他社にも影響する。したがって、原告会社の動向は、多数の国民の利害に関わるものである。

また、武井は、武富士の創業以来一貫してその代表取締役の地位にあり、その妻や武井の関係会社の保有する株式を含めて、武富士の株式の八割を保有しており、同社の経営の実権は武井が握っているから、武井個人の動向(健康状態も含む。)は武富士の動向を左右し、ひいては多数の国民に影響するのであり、武井個人の動向も多数の国民の利害に関わる。

(2)  本件記事が公共の利益を図る目的で掲載されたことについて

本件記事は、武井の入院とその病状について、写真も添えてありのままに伝えるものであり、公共の利益を図る目的に出たものである。

(3)  本件記事が真実と信じる相当な理由のあることについて

本件記事は、真実である。仮にそうでないとしても、十分な取材に基づいて書かれたものであるから、真実と信じるについて正当な理由がある。

ア 本件記事に書かれた事実は、真実である。なお、武井の病名について、鎮目医師が肺結核と断定したのは、昭和六二年三月三一日であり、写真撮影・取材の時点では原因は明らかとはいえなかった。

イ 記事が仮に真実でないとしても、真実と信じるについて相当の理由があった。

武井の金使い(三〇数億円の豪邸、ミンクのコート、ダイヤのネクタイピン)については、他の週刊誌や雑誌にも掲載されている。これらの記事は、武井本人へのインタビュー(月刊現代)のほか、多数の者に対する取材の結果書かれたものであり、これだけの資料があるのであるから、そこに記載された事実を真実と信じるのには十分な根拠がある。

武井が単に武富士の株式を多数所有するだけでなく、実際に意にそわない社長などを解雇してきた事実は、竹腰洋一、秋葉節一の供述によるものであり、真実と信じるについて十分な根拠がある。

病状については、武富士の広報室を訪ねて取材している。したがって、その取材経過に違法はない。

(4)  本件記事が公正な論評であることについて

「成金趣味」「超ワンマンオーナー」「トップが倒れれば会社も傾く」との評価は、事実に基づき、一般に行われるような評価をしたものであるから、公正な論評であって違法ではない。

(5)  本件記事の意味について

本件記事は、武井の病状をありのままに伝えたものであって、健康が回復不能であるとの印象を与えるものではない。

また、「傾く」との記事についても、武富士の当初の計画が変更されたり業績が前より悪化する可能性があるという趣旨であることは明らかで、読者に対し武富士が倒産の危機に瀕するとの印象を与えることはない。この記載は、公正な論評にほかならない。

(二) 本件写真の掲載が違法でないことについて

(1)  武井の健康状態は、私的事項にとどまらず、公的関心事というべきである。そして、本件写真は、もっぱら公益を図る目的で掲載されたものである。

(2)  本件写真は、記事本文と一体となって報道の意義を有するものであり、記事本文の真実性を担保し、武井の健康状態をありのまま伝えるために必要不可欠であった。

(3)  新潮社側では、病院関係者をそそのかして武井に関する情報を漏洩させたことはない。写真も、一般人が通行を許された場所で撮影しており、住居の平穏を害してはいない。

第三当裁判所の判断

一  本件記事の武井個人に関する事実の摘示及び論評が、武井の名誉を違法に毀損しているかどうかについて判断する。

1  本件記事のうち、武井が、武富士の経営拡大にあたって強引な手段を辞さず、三〇数億円の豪邸に住み、金むくのライター、ダイヤのネクタイピン、一〇〇〇万円のミンクのコートを所有するとの事実を摘示し、成金趣味のギンギラ会長であると評する部分、膚にツヤがなく、目に生気がない、原因不明の高熱で極秘に入院している、一年程前から糖尿病で目がよく見えない、昨年も「良性発作性眩暈症」で入院した、健康はもとに戻らないのではないか等の事実を摘示する部分は、それぞれ武井の社会的評価の低下を招来する可能性があり、その意味で同人の名誉に関わるものである。そして、個々人の名誉は、各人の人格権の重要な内容を構成するものとして、尊重されなければならない。

しかしながら、本件記事及び写真の雑誌への掲載は、表現の自由に属するものであり、表現の自由も重要な基本権の一つであるから、これも同様に尊重されなければならない。

そこで、当該表現行為が対象とされた者の社会的評価を低下させるものであっても、それが公共の関心事に関するもので、その目的が公益を図るものであり、かつ、当該事実が真実であるか、または行為者がそれを真実であると信じたことにつき相当の理由があるときは、当該表現行為は違法性がなく、名誉毀損の不法行為は成立しないというべきである。

ところで、自らある社会的活動を行い、それにより広く人々の生活に影響を及ぼす者については、その社会に及ぼす影響のゆえに、その者及びその者の活動に関して自由な言論による論評批判を認め、あるいはその論評批判の資料となる事実を豊富に確保する必要性が大きい。また、その者は、自らの意思で社会的活動をすることによっていわゆる有名人として公の存在となるから、人々がその者の社会的活動だけでなくその者の資質や個人的生活にまで興味や関心を寄せる程度も大きくなり、そのような情報に対する要求が大きくなるのも当然のことである。そして、そのような興味や関心は、その者がそのような公の存在であることによって、社会的に正当な関心であると評価されるのであり、このような意味において許容されるべきものとなる。その者の健康についても同様であり、一般人の場合、健康の問題は通常は私的な領域に属するが、その者が公の存在である場合には、その者の社会的活動との関係でそれが正当な公共の関心事となる場合があるというべきである。

なお、表現行為にかかる事実の真実性については、その事実の摘示の趣旨を左右する主要な部分について真実であるか、真実と信ずるについて相当の理由があれば足りると解するのが相当である。

2  そこで、本件について考える。

(一) 次の事実は当事者間に争いがない。

(1)  武井は、武富士の前身である有限会社武富士商事の設立以来一貫して代表者の地位にあり、今は代表取締役会長である。

(2) 武富士の発行済株式数は、昭和六一年一一月末現在で一億〇三九五万株であるが、武井及びその関係者・関係会社で八割以上を保有している。すなわち、武井個人が四三・五一パーセント、同人の妻である訴外武井博子(以下「博子」という。)が社長を務める訴外丸武産業有限会社が二二・二九パーセント、博子個人が九・九二パーセント、武井の経営する株式会社大央が五・六四パーセント、それぞれ保有し、その合計は八一・三六パーセントである。

(3)  武富士は、昭和六一年一一月現在の資本金が一〇四億五〇〇〇万円、従業員は約二五〇〇名で、庶民金融または消費者金融業界のトップ企業である。

(二) 次の事実は、当裁判所に顕著である。

消費者金融業界において、特に昭和五〇年代、過剰貸付、高金利、強引な取り立て等が社会問題化し、このような事態に対処するため、昭和五八年、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律の改正法及び貸金業の規制等に関する法律が、成立施行された。その後も、貸金業の規制等に関する法律四三条の解釈などをめぐる判決が散見される。

(三) また、証拠によれば、次の事実が認められる。

(1)  武井は、社会一般において、消費者金融業界のトップ企業である武富士を一代で築き上げた立志伝中の人物で、いわゆるワンマンオーナーであると評価されている。そして、その豪華な暮しぶりが世間の耳目を集め、そのことが週刊誌などにたびたび取り上げられている。

証 拠

乙三

乙六

乙八の1・2

乙一二

乙一三

証人野木正英の証言(一回二九~四四項)

被告後藤の供述(三丁裏)

(2)  武井は、現実に役員会に出席し、役員に対して指示をしたり意見を述べたりしている。

証 拠

甲一八

(3)  昭和六二年一一月末現在、武富士の融資残高は三一五三億八七〇〇万円、店舗数は三七四である。昭和六一年一二月から同六二年一一月までの間の純利益は、一〇三億円を越える。武富士の営業内容は、一般消費者に対する無担保無保証の融資がその殆どを占め、営業収益の大部分は賦払貸付金利息である。借り主一人に対する融資額は、昭和六二年頃は、概ね五〇万円以下、厳格な審査による場合が一〇〇万円以下であった。利息の額は、概ね年約三九パーセントであった。

証 拠

甲四

甲七の1・2

乙一

(四) 以上の(一)~(三)の事実によると、武富士は、多数の一般大衆に少額の貸付を行っている消費者金融会社のトップ企業であり、このような消費者金融が、私企業によるものではあっても、一つの大きな社会的活動であると評価すべきことはいうまでもない。そして、当然のことながら、武富士の事業活動に関する事実は、正当な公共の関心事である。また、武井個人についても、同人は、実質的に八割を超える武富士の株式を保有ないし支配し、同時に同会社の代表取締役の地位にあることによって、武富士の経営を支配し、具体的な業務の運営及び意思決定にも、大きな影響力を有しているものと認められる。そうすると、武井は、武富士の大株主(ないしはオーナー)及び代表取締役として、武富士の経営という社会的活動を通じて、自らも公衆に対し大きな影響力を持つ社会的活動をしているものと評価するのが相当である。したがって、多数の一般大衆を相手とする大規模な貸金業を営む企業のオーナー経営者として、その豪華な暮しぶりとあいまって、事業活動に関する事柄だけではなく、その資質・挙動や個人生活について強い社会の関心や興味が寄せられるのは、当然のことであり、これらの事柄は、武井の社会的活動に密接に関連するものとして、正当な公共の関心事であるというべきである。また、企業経営に強い影響力を持ついわゆるオーナー経営者においては、健康の障害や死亡などによってその企業の経営に大きな影響が招来されることが多いため、このようなオーナー経営者の健康問題については社会一般の関心も強く、日常各種の報道機関がこれを報道している。そして、武井も、武富士の経営に強い影響力を持つオーナー経営者であるから、この意味において、同人の健康状態も正当な公共の関心事であるというべきである。

(五) 以上検討したところに基づき、本件記事の違法性について判断する。

(1)  まず、本件記事のうち、武井の行状に関する部分、すなわち、同人が強引な手段を用いて武富士を資本金一〇四億円の会社にしたとの記述、及び同人が三〇数億円の豪邸に住み、金むくのライターにダイヤのネクタイピン、一〇〇〇万円のミンクのコートなど、成金趣味に身を固めたギンギラ会長であるとの記述について判断する。

ア 武井がどのようにして武富士の事業を成長させたのかという点は、同人の企業経営という社会的活動の内容そのものであるから、正当に報道の対象となる事項である。しかるところ、昭和五〇年代に、武富士を含む消費者金融業界の過剰貸付、高金利、強引な取り立て等が社会問題化したことは、先にみたとおりであり、武富士においても、貸し出し基準をゆるめて貸し出し、回収が不能となると支店長に暴行を加えて返済を約束させた旨の報道がなされるといった、これに符合する事情があり(乙三・八八頁、九、一〇、二一)、一般にもこのような評価がなされていたと認められるから(乙一一~一三)、この記述は、一般にみられる批判的な論評の範囲内のものとして、限度を超えたものということはできない。

イ 次に豪邸や、高価な所有物に関する記述は、武井の社会的活動そのものについての事実の摘示とはいえないが、先に述べたようにそのような活動をする武井個人の人となりや生活振りに関する事実として、公共の関心事ということができる。

そこで、この部分の真実性について判断するに、武井がダイヤのネクタイピンを所有していることは、当事者間に争いがない。また、三〇数億円の居宅については、昭和五八年頃の価格でその総工費が三〇億円程度であったこと(原告代表者秋吉良雄の尋問の結果二回五一、五二項)、これを所有しているのは株式会社大央であるが、同社は武井の支配する関連会社であり、武井がこれを利用していること(乙三、原告代表者秋吉良雄尋問の結果一回七九項)が、それぞれ認められる。そして、この部分の記事の核心は、武井が極めて高価な物を多数所有し、あるいは利用しているという事実を伝えることにあり、個々の持ち物を指摘したのは例示にすぎず、それが何であるかに大きな重点があるわけではないと考えられる。したがって、上記のように武井が高価な土地建物を居住用として利用していること、ダイヤのネクタイピンを所有していることは事実であるから、本件記事は、事実の主要な部分について真実であるというべきである。

また、これを「成金趣味」、「ギンギラ会長」と論評する部分も、武井を揶揄する意味合いが感じ取られるものの、限度を超えた論評とはいえない。

ウ 以上によれば、本件記事のうち武井の行状に関する部分は、違法に同人の名誉を毀損したということはできない。

(3)  次に、武井の健康状態に関する記述、すなわち、膚にツヤがなく、目に生気がない、原因不明の高熱で極秘に入院している、一年程前から糖尿病で目がよく見えない、昨年も「良性発作性眩暈症」で入院した、健康はもとに戻らないのではないか等の記述について判断する。

ア 先にみたとおり、武井の健康状態は、正当に報道の対象となる公共の関心事というべきである。

原告らは、被告が本件記事を執筆する三年以上前に武富士の取締役を辞任した秋葉節一の言をそのまま信用したことは、不公正な取材態度であり、被告らには誹謗中傷の意思があると主張する。しかしながら、フォーカス編集部の野木正英記者が、昭和六二年三月三〇日に武富士の本社広報部に赴いて取材を申し入れ、原告側から武井の病状を聞く機会を持ったことは、当事者間に争いがない。したがって、取材経過が不公正とはいえず、右記事が武井を誹謗中傷する目的に出たとは認められず、事柄の性質上公益の目的に出たものというべきである。

イ 次に、この部分の真実性について判断する。

証拠によれば、次の事実が認められる。(一部争いのない事実を含む。)

<1> 武井は、昭和六二年三月一二日、東京医科大学病院に入院した。同人には高い熱があったが、同病院では原因が判明せず、不明であった。

証 拠

甲三

鎮目医師の証言(二〇~二四項)

<2> 武井は、昭和六二年三月一五日から東京女子医科大学病院に転院した。同病院の鎮目医師は、武井を診察し、三月二二日頃、胸のエックス線写真を見て、肺結核ではないかと考えた。しかし、この時点では、武井の痰の中に結核菌が見当たらなかったこと、肺結核では増えないはずの白血球が多かったことから、右の診断は確定的な診断ではなかった。鎮目医師は、二三日から抗結核剤を投与した。四〇度近い発熱は、三月二五日朝まで毎日みられたが、二六日には三七度少し程度の発熱となり、熱が下がるなど症状が快方に向かったため、鎮目医師は、肺結核であることはほぼまちがいないと考えた。但し、鎮目医師は、武井の白血球数が多かったため、他の菌による病気の可能性も全く否定はできないと考え、肺結核以外の薬も使用したが、三月三一日にはそのような可能性もないと断定した。

証 拠

甲三

甲一三

鎖目医師の証言(一九、三五、三六、四一、四二、六五、七八、七九、九一項)

<3> 武井は、昭和六一年、めまいがして入院したことがある。武井が糖尿病にかかったことはない。目については、かつてぶどう膜の炎症で東京医科大学病院で治療を受けたことがあったが、昭和六二年四月頃視力は十分あった。

証 拠

甲一三

甲一八

鎮目医師の証言(六〇~六三、八三~八五項)

そこで検討するに、この部分の事実の摘示は、写真とも併せて読めば、武井の健康がすぐれず、原因不明の高熱があり、周囲には伏せて入院しているということが中心部分であると考えられる。その他の部分は、何人かの匿名の者の発言を援用する形で、様々な病名や病状が脈絡なく列挙され、そのような関係者の発言から武井に健康不安があることを示そうとの趣旨であって、医学的に正確な事実を究明し断定しようという趣旨ではないと理解される。そして現実にも、読者が武井の病状についての認識を統一することはできないものと解される。

もっとも、その思わせ振りな記述の仕方からして、多少の憶測を呼ぶ可能性は否定できないが、武富士側が新潮社側の取材に対し事実に反する事情を述べて対応したこと(証人野木の証言一回九六~一一八項)から考えて、やむを得ない程度のものといえる(被告後藤の供述一五丁表以下参照)。そうとすれば、武井が入院したこと、ある時期までは高熱があり原因不明であったこと、肺結核という肺の病気であったことが真実であり、肺結核という診断は写真撮影時には確定的でなく、この時点でも原因が明らかとはいいきれなかった以上、糖尿病に関する部分などが真実でないなどの事情はあるけれども、右の記事は主要な部分において真実であるというべきである。

ウ 以上によれば、武井の健康状態に関する右記事が武井の名誉を違法に毀損したものということはできない。

二  次に、武富士に関する事実の摘示及び論評が、武富士の名誉を違法に毀損したものかどうかについて判断する。

1  重要事項はすべて会長決裁という事実を摘示し、社長は単なる飾り、武井が超ワンマンオーナーであると論評する部分、トップが倒れれば会社も傾くと論評する部分は、武富士の名誉・信用に関わる記述である。

しかしながら、既に指摘したように、武富士は多数の大衆を相手に小口の消費者金融業を営む業界トップの会社であり、その意味で社会的な活動を営んでいるから、その事業に関係する事実については正当な公共の関心事として自由な言論が許されなければならない。

2  そこで、本件記事の内容について順次判断する。

(一) まず、重要事項はすべて会長決裁との事実を摘示したうえ、武井が超ワンマンオーナーで、社長は単なる飾りものにすぎないと論評する部分の違法性について判断する。

これは、武富士の経営の態様に関するものであり、正当な公共の関心事についての記述である。表現は誇張されているが、誹謗中傷の目的にのみ出たということはできない。

重要事項はすべて会長決裁という部分は厳密には事実ではないが(甲六、原告代表者秋吉良雄尋問の結果一回五一~六六項)、社長は飾りという部分と併せ読めば、その趣旨が武井が極めて大きな権限を持っているというものであることは容易に看取することができるから、主要部分が真実である事実に基づく許された範囲内の論評というべきである。

(二) 次に、トップが倒れれば会社も傾くという部分の違法性について判断する。

この部分は、会社の業績に関することであるから、もとより自由な言論の保証される事柄である。この部分が単に誹謗中傷の目的のみに出たものと認めることはできない。

この部分の論評は、全体を読めば武井の健康の障害で武富士の経営に悪影響が出るかもしれないとの趣旨を大げさに表現したものと解される。会社の経営に対し大きな権限を持つ者が病気などで働けなくなった場合に、その会社の営業に様々な影響が生じうることは、一般の常識に属するから、この論評も限度を超えたものということはできない。

3  以上によれば、本件記事における武富士に関する事実の摘示及び論評が、武富士の名誉を違法に毀損したものということはできない。

三  次に、本件記事において武井の入院を指摘したことが、武井のプライバシーを違法に侵害するものかどうかについて判断する。

1  民法七〇九条は、各人が秘密にしておきたい情報を秘匿する権利(プライバシー権)をも保護していると解される。

武井は、肺結核でそれまでかなりの高熱を発していたのであるが、このような状態を秘匿し、静かに静養したいと考えるのは通常人の常識に照らして自然なことであり、本件記事で触れられた事項は、プライバシー権の保護の対象たりうるものである。

しかしながら、名誉毀損に関して説示したのと同様に、ここでも、言論の自由の重要性とを比較衡量しなければならない。武井は、自らの意思で企業の経営という社会的活動を行い、人々の生活に広く影響を与えているのであるから、武井の健康状態も正当な公共の関心事というべきである。したがって、プライバシー権との関係でも、自由な言論を保障すべきである。

もっとも、人々の関心を引く原因が自らの活動にある場合であっても、その者がプライバシーのすべてを放棄したとはいえないし、プライバシーの権利は個人の尊厳に結びつく重要な人格的権利であって、十分な保護が必要であるから、公共性の高い社会的活動を行う者でも、一般人よりは狭いながらもプライバシーを保護すべき場合があるというべきである。例えば、このような者であっても、私宅に自由に侵入されることを甘受すべき理由はないといわなければならない。

そこで、プライバシーの侵害が違法となるかどうかは、当該事項の秘匿を期待する度合いがどの程度か、その公表による権利侵害の程度がどの位か、自ら人目を引くようなことを行うなどプライバシー権の放棄を窺わせるような事情がないかどうか、当該事項がその者の社会的活動に関係する度合いがどの程度か等を考慮し、プライバシー保護の必要性と言論の自由保護の必要性とを比較衡量して、その侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるかどうかを判断してこれを決すべきである。

2  これを本件についてみると、一般には、自己の病気が広く他人に知られること自体苦痛であり、また他人にわずらわされることなく休養したいと希望するのが通常であろう。したがって、病気に関することについては、秘匿を期待する度合いは通常はかなり高いといえる。そして、本件では、プライバシー権の放棄を窺わせるような事情もない。

しかしながら、先にみたように(第三の一・1、2・(四)参照)、本件記事の対象である武井の健康状態自体は、一般的には正当な公共の関心事であるということができる。そして、その記事の内容は、要するに武井が原因不明の発熱で入院しているというのであり、この程度の事柄は、広く社会的活動を行う武富士のオーナー経営者の健康状態についての情報として、公衆が正当に関心をよせることが当然許容される範囲内のことと考えられる。また、この程度の健康障害は、年齢を重ねるにしたがって発生しやすくなるものであって、それが公表された場合の被害は一般にはそれほど高くないと考えられる。

このようにみてくると、武井の健康状態については、自由な報道の対象とすべき必要が相当高い反面、秘匿の必要性が非常に高いとはいえないものであり、これについての本件程度の記事が違法に武井のプライバシー権を侵害したものということはできない。

四  被告側による写真の撮影及び頒布が、武井の肖像権及びプライバシーを違法に侵しているかどうかについて判断する。

1  次の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(一) 武井は、後藤の指示をうけたカメラマン外木正合により、東京女子医科大学付属病院の廊下で、車椅子に乗って、移動中に同意なしに写真撮影された。

(二) この写真は、後藤が編集した昭和六二年四月一〇日号の雑誌「フォーカス」に掲載され、広く頒布された。

2  そして、何人も自己の容貌や姿態を無断で撮影され、公表されない人格的な権利、すなわち肖像権を有しており、また入院中の姿態は同時にその者のプライバシーといえるから、後藤が外木を用いて武井の肖像権ないしプライバシーを侵害したかどうか問題が生じる。

3  そこで、この行為の違法性について判断する。

(一) 写真の撮影・頒布は、撮影された者の姿態を直截に伝え、読者に極めて強い印象を与えるものであるから、これを望まない者に対し、単に記事にされるよりも強度の苦痛を与えるものである。しかし他面、写真が正確な報道のために必要な場合も多い。そこで、写真の撮影・頒布が違法となるかどうかは、それによる肖像権ないしプライバシーの侵害の程度がどの位か、撮影対象事項とその者の社会的活動との関係がどの程度か、その写真撮影の場所・態様がどのようなものであるか、その写真が当該表現行為に必要不可欠なものかどうか等を併せ考慮し、肖像権及びプライバシー保護の必要性と表現の自由保護の必要性とを比較衡量して、その侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものかどうかを判断してこれを決すべきである。

(二) これを本件についてみると、被告らは、武井が武富士の広報部の言うように少し疲れただけでなく、もっと健康を害していることを直截に明示する趣旨でこの写真を掲載したと主張する。

確かに、この写真により、武井が病院に入院中であること、自分で歩けない状態で病院内を移動し、少なくとも軽度の症状ではないこと(鎮目医師の証言によれば、車椅子で移動するのは中等度の症状であることが認められる。六六項)が示され、そのような事実を強く訴えることができる。そして、武井が武富士の経営により社会的活動をしていること、武井の健康状態がその社会的活動と関連して正当な公共の関心事であることは、先に述べたとおりである。

しかしながら、病院の中は、患者が医師に身体を預け、秘密ないしプライバシーの細部まで晒して、その診療を受ける場所である。そして、患者が病院内において自らの秘密ないしプライバシーを細部まで開示するのは、病院の唯一の目的である患者の診療に必要不可欠であるからであり、これをおいて他に理由はない。そして、開示された秘密ないしプライバシーは、相互の信頼に基づき診療の目的にのみ使用され、他の目的に使用されないことが、法的にも社会的にも承認され、保証されているのである。したがって、病院の中における患者の生活自体は、それが診療と関係がないと認められる特段の事情がない限りは、他から侵害されてはならないものというべきである。そして、患者の肖像権についても同様というべきである。これを要するに、一般に、病院内は、完全な私生活が保証されてしかるべき私宅と同様に考えるべきである。

また、報道する側からいえば、武井につき四〇度近い熱があり入院したが、原因が簡単には分からず転院したこと、車椅子に座って移動するような状態であることなど事実を丹念に摘示していけば、武井の健康状態について真実がどうであるかを報道することは可能であり、本件であえて武井の写真を撮影し掲載しなければならない必要性までは認めがたいというべきである。

したがって、本件における写真の撮影・頒布は違法であり、この点についての武井の主張は理由がある。

(三) 被告らは、本件記事の写真の撮影は病院の廊下で行われており、廊下は一般公衆の目に触れる場所であるから、そこで取材することは社会的に許容されるべきであると主張する。

なるほど、病院の廊下は、不特定多数の者が往来する場所であるという意味では、被告らのいう要素があることを全く否定することはできない。しかし、病院の廊下は、当該病院の診療に必要不可欠な建物内の一スペースである。そこでの通行は、診療行為その他の病院の業務を実施しまたは患者とその関係者の利便を図るという範囲内を限度として予定されているにすぎない。病院の廊下がこのような特殊の性質を有する場所であることから、病院外の者を含めてすべての関係者の間で、廊下を通行する者が病院の診療を妨げず、患者のプライバシーを侵害し合わないとの了解が成立しているのである。このような了解がなければ、患者を含む関係者は、廊下を診察室・手術室・病室・検査室等の遮蔽された部屋と同性質のものと理解し、安んじてこれを利用することはできないであろう。武井は、このような場所で、診療を受けている最中の状態を承諾なく写真撮影され、これを保存できる形で不特定多数の者に頒布されたのである。被告らの行為が許容されるとすれば、患者は病院においてさえ自己の姿態を写真取材から守らねばならない。このようなことは、病人という弱い立場にあって、安んじて診療を受けようとしている者に、過大な負担を課すものであり、人道上の見地から許容することはできない。被告らの行為は、違法な肖像権及びプライバシーの侵害というべきである。

五  損害賠償の方法・内容について判断する。

1  後藤が、「フォーカス」の編集長として本件記事及び写真を頒布させたこと、新潮社が後藤を雇用していることは当事者間に争いがない。したがって、後藤は民法七〇九条により、新潮社は七一五条により、それぞれ武井に対して損害賠償義務を負う。

2  ところで、武井は本件の損害賠償として謝罪広告と金銭賠償とを求めている。損害賠償とは、本来、違法行為によって被害者に生じた不利益状態をその侵害行為がなされる前の状態に回復することを意味するところ、民法は、その損害賠償の方法として金銭賠償を原則とし、非金銭的救済(特定的な救済)は例外的な方法であるとの建前をとっている(七二二条一項、四一七条、七二三条)。しかし、これは、貨幣経済・商品経済を基礎とする現代社会においては金銭賠償が適切、かつ、合理的であるとの判断に基づくものであり、名誉侵害については、民法自身適切、かつ、合理的な救済方法として特定的な救済を認めているところである。すなわち、民法は、名誉侵害については、侵害の態様が広く将来に渡って継続し、かつ、損害の内容につき金銭的評価が困難であることに照らし、その損害の回復には現実的な損害回復方法である特定的な救済を認めるのが適切、かつ、合理的である場合があるとして、これを許容しているものと解される。したがって、侵害の態様や損害の性質・内容に照らし、特定的な救済が適切、かつ、合理的であると認められる場合には、名誉侵害と同様に、金銭賠償に代えまたはこれと共に特定的な救済を認めるのが相当である。

これを本件についてみるに、本件の武井の肖像権及びプライバシーの侵害による損害は、被告らが本件写真を雑誌に掲載してこれを約一二〇万部頒布し、本件写真を広く一般読者に公表し、現在においてもなおその状態が除去されていないということによって武井に生じているものである。そして、これによって武井に生じている損害は、算定の困難な精神的損害である。したがって、本件の肖像権及びプライバシー侵害は、侵害の態様及び損害の性質において名誉侵害と類似した性格を有しているものと考えられる。そこで、本件の肖像権及びプライバシー侵害の原因を現実的に除去しまたは減少させることができるのであれば、特定的な救済は、損害賠償の方法として適切、かつ、合理的なものと考えられる。

しかして、本件の肖像権及びプライバシー侵害の原因事実の本体は、本件写真を多数の読者が認識するというところにあるから、例えば、本件写真を掲載した雑誌を回収することにすれば、物理的に読者の認識を遮断することになり、将来の損害の除去という点からすれば効果的なものといえる。ただ、頒布後長期間経過した現段階では、これを回収することは困難であり、実効性のある特定的な救済とはなりえない。しかし、雑誌自体の回収によらなくても、本件写真が武井の肖像権及びプライバシーを違法に侵害するものであり、雑誌に公表することが法律上本来許されないものであることを読者に認識させる方法を採用すれば、読者の本件写真に対する認識の仕方を変えることにより本件写真の社会的な意味を質的に変容させ、もって本件肖像権及びプライバシーの侵害の原因を相当程度減少させることができるものというべきである。そして、そうすることによって、将来の侵害ばかりでなく、過去の侵害による武井の精神的な損害をも一定程度軽減することができるものと考えられる。このようにみてくると、本件においては、民法七二三条を類推適用して被告らに謝罪広告を命ずるのが、損害の原状回復の方法として、有効、適切、かつ、合理的であり、また公平の理念にも合致するというべきである。そして、その謝罪広告は、本件写真が掲載された雑誌「フォーカス」の読者を対象として、同雑誌に別紙(一)の内容を掲載させるのが相当である。

3  しかし、右の謝罪広告だけでは、武井の被った損害の賠償に不十分であるから、本件においては、これに加え、被告らに慰謝料の支払をさせるのが相当である。そして、慰謝料の額は、二〇〇万円が相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 淺生重機 裁判官 岩田好二 裁判官 久留島群一は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 淺生重機)

別紙(一)(二)(三)<省略>

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